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相続税対策の不動産購入はデメリットが多いので慎重に【鑑定士コラム】

不動産売買契約書

「不動産を購入すると相続税を節税できる」という話を聞いたことがある方は多いと思います。
もちろん、節税できるケースもあるのですが、誰にでも手放しでおすすめすることはできません。

不動産の購入にはデメリットも多いので、リスクも踏まえた判断が必要です。
相続税が節税できたとしても、赤字経営や値下がりによって、結果的に節税額よりも大きな損失を出したら意味がないと思います

「節税になる」というセールストークで様々な不動産投資を勧められるケースを見かけますが、どうか慎重に判断していただきたいと思います。

この記事では、次の点をわかりやすくお伝えします。

  • 不動産の購入が相続対策になる仕組み
  • 相続対策で不動産を購入するデメリットは5つ
  • 相続対策の不動産購入で注意したいことは3つ

1. なぜ不動産の購入が相続対策になるのか

はじめに、不動産購入が節税になる理由を一言でいうと、不動産の相続税評価額は時価よりも下がることがほとんどだからです。

そもそも相続税は、遺産が一定の額(基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合だけ課税されます。そして、遺産が多ければ多いほど納税額は増える仕組みになっています。逆に言えば、資産の評価額を下げることができれば、相続税の節税対策になるわけです。

相続税を計算するときの遺産の評価額は、現金や預金なら額面どおりの評価ですし、有価証券なら時価で評価されます。一方、不動産の時価はわかりにくいので、【国税庁が決めた特別な方式】で評価されます。この【国税庁が決めた方式】を使うと、不動産の相続税評価額は実勢価格よりも下がる傾向があるため、現金を持っているよりは不動産を購入したほうが結果的に節税になるのです。

では、不動産の相続税評価額はどのように決まるのでしょうか。

1-1. 土地の相続税評価額が「時価」よりも低くなる仕組み

土地の相続税評価額は、「相続税路線価」を使って評価されます。これを路線価方式といいます。
路線価とは、国税庁が毎年発表している、それぞれの土地の面している道路に設定されている価格です。国税庁の「路線価図」で調べることができます。

なお、国税庁の路線価図は、少し地図が見にくいかもしれません。
「全国地価マップ」のほうが地図が見やすく、該当する場所を探しやすいと思います。
全国地価マップは国税庁の最新の路線価が反映されるまでタイムラグがあるため、発表直後はご注意ください。
【全国地価マップ ホームページ】

相続税路線価は時価の80%程度の水準に設定されていることが多いため、不動産を購入することで節税が可能となります。
例えば、現金で1億円持っていれば、相続税評価額は額面通り1億円ですが、同人が時価1億円相当の土地を購入すると、評価額を8千万円前後に下げることができます。都心の人気エリアなどでは、路線価を80%で割り戻した額よりもずっと値上がりしている土地もあるので、節税効果は大きいです。

路線価方式の相続税評価額の計算は次の通りです。

土地の相続税評価額
=相続税路線価×補正率×面積

補正率というのは、形状などが特別な場合に加減する値です。
例えば路線価が1平米あたり10万円、面積が100平米、細長いので補正率0.95という土地なら、10万円×100平米×0.95=950万円が相続税評価額となります。

なお、郊外や山林・農地など、路線価が付いていない場所もあります。また、都心でも細い私道などは路線価が決められていないケースが多いです。このようなときは、倍率方式が使われます。倍率方式は「固定資産税評価額の何倍」という計算になります。

1-2. 貸している土地は評価額が下がる

例えば土地を誰かに貸して、土地を借りた人が家を建てて住んでいる場合、上記の計算よりもさらに相続税評価額が下がります。このような土地を「貸宅地」といいます。

貸宅地の評価額計算式は次の通りです。

貸宅地の相続税評価額
=相続税路線価×補正率×面積×(1-借地権割合)

借地権割合は国税庁の路線価図に記載されています。路線価図の数字の後に、「100D」などとアルファベットが付いており、Dなら60%、Cなら70%といった意味です。借地権割合は場所によって異なりますが、60~70%のエリアが多いので、貸宅地は自用地の3~4割の評価になることが多いです。

1-3. 土地にアパートを建てれば評価額が下がる

所有している土地にアパートを建てた場合にも、土地の相続税評価額は下がります。賃貸アパートなどの敷地を「貸家建付地」といいます。
以下に、5,000万円の土地を購入し、そこに5,000万円の建築費でアパートを建てたと想定した場合の相続税評価額を計算してみます。

アパートの土地部分の評価額

土地の評価額は「貸家建付地」としての評価となります。

アパートの土地部分=「路線価等を基にした評価額」×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借地権割合は、30~90%の範囲で地域ごとに決まっていますが、60~70%のエリアが多いです。借家権割合は、全国一律30%です。賃貸割合は相続時に賃貸されている部屋の割合です。

ここでは、時価5,000万円の土地の路線価評価が4,000万円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%と想定します。
4,000万円×(1-(60%×30%×100%))=3,280万円

アパートの建物部分の評価額

賃貸建物の評価額は、市区町村が決めた固定資産税評価額を用いて算出します。固定資産税評価額は、新築でも建設費の50~70%程度が相場です。

アパートの建物部分=固定資産税評価額×(1-借家権割合)×賃貸割合

ここでは、固定資産税評価額は3,000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%と想定します。
3,000万円×(1-30%)×100%=2,100万円

アパート全体の評価額

アパート全体の評価額は、土地の評価額3,280万円+建物の評価額2,100万円=5,380万円という計算になりました。1億円の現金を持っているのと比べて、この例では評価額が半分近くになったことがわかります。

アパート建築は昔から定番の相続税対策です。節税効果が大きいのは事実ですので、リスクも納得した上で建てるならば、人によっては満足度が高くなります。

1-4. 「小規模宅地等の特例」が適用できると評価額が下がる

相続税の試算で大きな影響を持つのが、「小規模宅地等の特例」です。
「小規模宅地等の特例」は、自宅や賃貸アパートの敷地、事業を行っている土地などに適用できます。

この特例を使うと、自宅の敷地のうち330㎡までは評価額が80%も減額されます。ただし、特例を適用するためには、相続する人についての条件があります。

賃貸アパート等の敷地は、限度面積200㎡まで評価額が50%減額となります。ただし、相続開始前3年以内に貸付事業を始めた場合は適用されません。

特例を適用するための要件は非常に細かいのでご注意ください。
▶国税庁「小規模宅地等の特例

2. 相続対策で不動産を購入する5つのデメリット

相続対策で不動産を購入しようと思うときは、次の5つのデメリットを踏まえた判断が必要です。

2-1. 値下がりリスク

不動産の購入時にまず意識したいのが、不動産価格の変動リスクです。
建物は通常、築年数が経過するとともに価値が下がっていきます。土地については経済状況の影響を受けますが、直近の傾向としては、上昇しているエリアと下落しているエリアに二極化しています(2021年6月時点)。投資用マンションなどの相場は長期で見ると上下に変動するため、タイミングによっては価値が下がってしまうことも考えられます。

2-2. 経営赤字のリスク

次に意識しておきたいのが、不動産の運用による損失リスクです。
アパート・マンション経営が順調であればいいのですが、空室のリスクはつきものです。築年数が経過したりライバル物件が増えれば家賃を下げなければならないかもしれません。また、修繕も小さなものから大規模なものまで必要となり、意外と費用がかかります。

2-3. 相続人が平等に分けにくい

不動産は物理的に分けにくいので、遺産分割の際にトラブルの原因になることがあります
2人以上で相続するときには、不動産を共有名義にすることもできますが、共有にすると処分が難しくなったり、将来の権利関係が複雑になりやすいのであまりおすすめできません。土地なら2つ以上に物理的に分けることもできますが、土地を公平に分けるのは意外と難しいものです。

2-4. 諸費用・税金がかかる

不動産を購入する際には、仲介手数料、不動産取得税などの諸費用や税金がかかります。
保有期間中は、毎年の固定資産税・都市計画税、家賃収入に対する所得税・住民税も必要になります。
また相続人が不動産を売却することになった場合、仲介手数料や税金が再度発生します。「相続税対策をしたつもりなのに、総合的にみたら出費がかさんで負担があまり減らなかった」ということにならないように注意が必要です。

2-5. 売却に時間と手間がかかる

相続した人が不動産をすぐに売りたいと思っても、不動産を売却するにはスムーズに進んでも数か月かかります
人気エリアのマンションなどは短期間で売りやすいですが、買い手が見つからないような不動産を遺産として残してしまうと、相続人に悩みの種を残すことになりかねません。

資産が不動産ばかりに偏っていると、相続税の納税資金が不足し、納税資金を作るための売却に焦るケースもあります。相続税の申告・納税期限は、亡くなってから10ヶ月以内なので、相続人が困らないように納税資金についても考慮しておくことが大切です。

3. 相続対策の不動産購入で注意したい3つのこと

相続対策として不動産を購入する場合は、次の3つの点にご注意ください。

  1. 納税資金・遺産分割・二次相続まで考えておくこと
  2. 新築するなら慎重に内容を吟味すること
  3. 中古物件はリスクの高い物件を避けること

それぞれ詳しくみていきます。

3-1. 納税資金・遺産分割・二次相続まで考えておくこと

相続税対策として不動産購入を検討する際には全体を見て、先々まで見通した上で決めることが大切です。
少なくとも、納税資金、遺産分割、二次相続については考慮する必要があります。

●納税資金は足りるか
申告期限である10ヶ月以内に不動産を売却して納税資金を作ろうとすると余裕がないので、納税資金は流動性の高い預金などにしておくことが大切です。

●スムーズに遺産分割できるか
複数の相続人がいる場合は、遺産分割のしやすいような不動産を購入したり、遺言を作成して意思を明確にしておくと安心です。

●二次相続まで含めて有利か
配偶者が相続するとき(一次相続)には非課税枠が大きいので相続税の負担は小さくても、次に子ども世代が相続するとき(二次相続)に相続税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。相続対策では、二次相続まで考えて有利になるように計画を立てることが非常に大切です。

相続対策にはこのように広い視野が必要なので、相続対策に精通した税理士に相談することをおすすめします。

3-2. 新築するなら慎重に内容を吟味すること

地主さんの中には、「相続対策だからあまり儲からなくてもよい」という気持ちでアパート等を建ててしまう方がいらっしゃいます。

このような場合は、赤字になって財産を減らす結果になりがちです。
アパートを建てるなら、本当に採算が取れるのかどうか慎重な判断が必要です。ここ数年は建築費の上昇が続いているので、家賃水準の低いエリアの採算は厳しくなってきています。また、家あまりの時代だからこそ、立地に恵まれていないと成功しない可能性が高いですし、立地が良い場合はライバル物件も多いはずなので集客力のある物件を建てることが必須条件です。

悪質な業者の場合、見栄えのする資金計画を作り、実際以上に手元にキャッシュが残ると見せかけて提示してくることもあります。
例えば、新築時の高い家賃が何年もずっと続く予測での資金計画、必要となる大規模修繕費を予算に組み込んでいない資金計画などには注意が必要です。アパートを建てるときには、いくつかの建築会社の提案する内容を見比べることだけは最低限やってみてほしいと思います。「こちらの業者は計上している費用が、あちらの業者には入っていない」といった違いが見えることがあります。
また、「30年の一括借り上げで家賃保証なので安心」と説明されたとしても、30年間家賃が絶対に変わらないという意味ではありません。サブリース契約にはメリットとデメリットがあるため、契約内容をしっかり確認することが大切です。
判断が難しい場合は、不動産に詳しい中立な立場の第三者に相談することをおすすめします。

サブリースによるアパート経営についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
コラム「一括借り上げ・サブリース契約の仕組みとトラブル」

3-3. 中古物件はリスクの高い物件を避けること

中古マンションやアパートを購入すれば現金を持っているより相続税評価額は下がりますが、節税する以上に損失が出てしまうようではメリットがありません。相続対策としての不動産購入を検討するなら、手堅い投資物件を選ぶことが大切です。
特に注意したい点についてコメントしておきます。

●立地
高い集客力を得るために立地は重要なポイントですが、一等地の物件を法外な値段で売り込まれるケースもあるのでご注意ください。逆に、郊外や築年数が古い、利回りの高い物件を勧められることもありますが、「利回りが高い」=「リスクも高い」ということを意識することも重要です。

●修繕費
中古アパート・マンションを買うときは、これまでの修繕履歴を必ず確認してください。計画的なメンテナンスがされていない物件は、購入後の修繕費負担が高額になりやすいためです。購入時に建築士による「インスペクション」を依頼し、将来の修繕コストを把握しておくのも有用です。

●家賃水準
現在の入居者の家賃水準が相場より安すぎないかどうか確認してください。相場より安い賃料で入居している場合、契約途中での値上げはほぼ不可能です。高めの家賃で入居しているなら、入居者の入替のタイミングで相場程度の家賃水準に下がってしまうリスクがあります。

●更地の相場
中古アパートを購入するときは、更地の相場がどれくらいかということも事前に把握しておくと安心です。築年数の古いアパートは、更地と同じくらいの値段で一棟を購入できる場合も多いので、将来は取り壊して売却する前提で投資するという方法もあります。ただし、立退料などのコストも見込んでおく必要があります。

賃貸経営は築年数が浅いうちは家賃が高く、減価償却も大きいので利益が出やすいです。
古くなると家賃下落と修繕コストの上昇で経営が苦しくなってくるのが一般的なので、相続税対策として良い物件かどうか十分に見極めることが必要不可欠です。リスクが高い物件を掴まされないようにご注意ください。

4. まとめ

不動産の相続税評価額は時価よりも低くなるケースがほとんどなので、不動産を購入すれば相続税対策になります。
ただし、不動産を購入するときには、「値下がりリスク」「経営赤字のリスク」「相続人が平等に分けにくい」「諸費用・税金がかかる」「売却に時間と手間がかかる」といったデメリットを踏まえた判断が必要です。

相続対策で不動産を購入するときに注意したいことは次の通りでした。

  • 納税資金、遺産分割、二次相続まで考えておくこと
  • 新築するなら慎重に内容を吟味すること
  • 中古物件はリスクの高い物件を避けること

弊社は中立な立場の専門家として、新築アパートの収支計画のチェックや、中古アパート・マンション等の調査にも対応しております。また、相続税の申告・対策に精通した税理士のご紹介も可能です。
相続対策に迷ったとき、不安なときはぜひご相談ください。

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